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病的放火(放火癖)

F63.1 病的放火(放火癖) Pathological fire-setting (pyromania)

放火症 pyromania

疾患の具体例

13歳男子。幼い頃から火遊びが好きで、よく親に叱られていました。一度、近所で大規模な火災があった時に見た様子が頭から離れず、火を見たい、火を消したいという気持ちがありました。小学生の頃の作文では「将来の夢は、消防士になること」と書いていました。思春期を迎えて以降、火を見ると性的に興奮することに気付きました。その快感を得たいがために、あまり使われていなそうな農家の小屋などに火をつけ、自分で消すことを繰り返していました。ある時、もっと大きな火災を見たいと思い、まったく面識のない人の家に火をつけました。燃える様子や消火活動を見て大きな興奮を得ましたが、後日、目撃者の情報によって補導されました。医師の診察を受け、「病的放火」と診断されました。

 

特徴

他人の家や財産への放火行為を何度も繰り返したり、あるいは計画したりする障害です。火を見ることや、消火設備や消火活動を見ることに異常な興味を伴うことがあります。放火をする前には、緊張感や感情的興奮があり、人によっては性的興奮を覚えます。近所で火災が起きれば必ず駆け付けるだけでなく、偽りの通報をしたり、消防署で過ごしたり、自分自身が消防士になる場合もあります。

放火をすることにはっきりした動機はありません。金銭的利益、社会政治的イデオロギーの表現、犯罪行為の隠蔽、怒りまたは報復の表現など、いずれの条件も該当しないのが特徴です。火災によって他人の生命や財産が失われることには無関心か、あるいは満足を得ている可能性があります。衝動的に放火する人は、しばしばアルコール障害の既往があります。

 

原 因

放火癖には心理社会的要因が関係していると考えられます。フロイトは、火を性の象徴として説明しました。火の放出する温かさは性的興奮状態と同様の感覚を喚起し、火の形や動きは活動している男性器を示唆しているとしたのです。他の精神分析医は、放火癖は権力や名声を異常に欲しがる者と関連があると説明しています。患者さんのなかには消防士を目指す人もいますが、自分の勇敢さを示唆するため、あるいは他の消防士を行動に駆り立てるため、または火災を消すことで自分の力を証明するためという考え方です。また、放火行為は社会的、肉体的、性的劣等感によって引き起こされ、ため込まれた激しい欲求不満のはけ口になっているとの説もあります。

女性の場合は、消防士を駆り立てるために放火することはありません。しかし、快感のない性的乱交や、ちょっとした盗み行為を含む非行の傾向が見られます。

 

有病率

一般人口における放火症の有病率はわかっていませんが、非常に少ないと見られています。放火をしたことがある人の割合は、一般人口の1.13%との報告があります。女性より男性にずっと多く見られ、特に社会に適応することが難しい成人や、学習困難の子どもが目立ちます。度々の放火で警察に捕捉された人のうち、放火症のすべての基準を満たす人は3.3%に過ぎません。

 

経 過

放火はしばしば小児期に始まります。治療を受けた子どもの予後はよく、完全寛解に至るとされています。青年期や成人期に発症した場合は、故意に破壊的な傾向があります。気まぐれで、しばしば放火の頻度が増えたり減ったりします。彼ら自分の行動を否定し、責任を拒絶し、アルコールに依存しがちなため、治療を受けても予後はよくないと言われています。

 

治 療

放火癖の治療は、行動療法、家族療法などを含んださまざまな形式を用いたものが適しているとされます。どの治療計画でも、放火を予防するために患者の管理が含められています。投獄が唯一の方法である場合もあります。子どもの放火は、できるだけ集中的介入を行うべきです。懲罰的ではなく、治療的かつ防止的な内容にすることがよいとされています。

 

診断基準:ICD-10

本質的な特徴は以下のとおりである。

  1. 金銭を得ること、復讐あるいは政治的過激主義のような、いかなる明確な動機もなしに繰り返し放火すること。
  2. 火災を見ることに対する強い興味。
  3. そのような行為の前に緊張の高まりを感じ、実行直後には強い興奮を覚えると述べること。

[鑑別診断]

病的放火は以下のものから区別されなければならない。

A. 明白な精神科的障害のない故意の放火(この場合は明白な動機がある)

B. 後遺障害に伴う若者による放火(窃盗、攻撃性、あるいはずる休みなど、他の行動の障害が明らかなもの)

C. 社会病質パーソナリティ障害を伴う成人による放火(攻撃性、あるいは他の人々の利益や勘定への関心の欠如を示す、他の持続的な社会的行動の障害が明らかなもの)。

D. 統合失調症における放火(火災が典型的には妄想的観念あるいは幻声からくる命令に値する反応として起こされる場合)。

E. 器質的な精神科的障害における放火(火災が錯乱、記憶力の減弱あるいはその行為の結末がわからないこと、あるいはそれらの要因の組み合わせの結果として、偶発的に起こされる場合)。

認知症、あるいは急性の器質的状態からも不注意の放火に至ることもある。急性の酩酊、慢性アルコール中毒あるいは他の薬物中毒もまた原因となる。

 

診断基準:DSM-5

A. 2回以上の意図的で目的をもった放火。

B. 放火の行為の前に緊張感または感情的興奮。

C. 火災およびそれに伴う状況(例:消防設備、その使用法、結果)に魅了され、興味をもち、好奇心をもち、ひきつけられること。

D. 放火した時の、または火事を目撃したり、またはそこで起こった騒ぎに参加する時の快感、満足感、または開放感。

E. その放火は、金銭的利益、社会政治的イデオロギーの表現、犯罪行為の隠蔽、怒りまたは報復の表現、生活環境の改善、幻覚または妄想への反応、または判断の障害の結果〔例:認知症、知的障害(知的発達症)、物質中毒〕によってなされたものではない。

F. その放火は、素行症、躁病エピソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない。

※参考文献

『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)

『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)

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